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シュタルケル聴き比べ

チェリストは数多くいるけれど、私の中ではチェリストといえばカザルスと相場が決まっていて、どんなチェロ曲を聴くときでもまずはカザルスのを聴こうとしてしまう。したがって所有するチェロ曲の音源もどうしてもカザルスに偏る。他のチェリストでも、デュ・プレ、ロストロポーヴィチ、フルニエの音源などは何枚も持っていて、特にフルニエの音源は、ベートーヴェンやブラームスのチェロソナタを中心によく聴くけれども、それでも内田光子が「宇宙の真ん中で鳴っているよう」と形容するカザルスのあの音に私は最も惹かれる。しかし、あんまり偏りすぎるのもよくなかろうと最近考えていて、様々な音楽家の演奏に耳を傾けようとするこの頃、チェリストのヤーノシュ・シュタルケルを聴いてみた。タワーレコード等の試聴機で聴いたことぐらいならあるかもしれないが、改まって聴くのは意外にも初めてだと思う。

シュタルケルは1924年にハンガリーに生まれた。1950年に録音したコダーイの無伴奏がその録音のよさもあいまって評判を呼んだらしいが、コダーイの無伴奏は残念ながら未入手である。手元にあるのは、ベートーヴェンのチェロソナタ第3,4番(共演者ブーフビンダー)、ブラームスのチェロソナタ(共演者シェベック)、ドヴォルザークのチェロ協奏曲(指揮者ドラティ)という3枚である。

最初に聴いたのはブラームス。1959年の録音。共演者のシェベックは名前すら聞いたことがないピアニストで、どんな演奏をするのかと興味津々だったが、聴いてみての感想は全く期待はずれだった。シュタルケルとの呼吸が合っておらず、どこかしらぎこちない演奏。シュタルケルを立てるわけでもなく、丁々発止とやり合うわけでもなく、微妙な立ち位置。シュタルケルの解釈にも疑問。特に第1番はひどく、第1楽章の第1主題からして大味である。再現部の第2主題のあたりは盛り上げ方がうまくもあるが、それも長くは続かない。第2番は少しマシだが、それでも……。フルニエとバックハウスの録音の方がずっとよいと思う。Webで「シュタルケル」で検索してみて、このブラームスの演奏に対して評価が高いのがどうも解せない。

続いて、ドヴォルザーク。1962年録音。このチェロ協奏曲は、チェコの作曲家ならではの土俗的な雰囲気を随所に盛り込んだ作品で、この雰囲気をいかに出すか―――これはチェコ人が演奏するときは大きな問題とならないが、他の国の演奏家が弾くときには結構な難題らしく、うまく出せない演奏がしばしばあって、そういう時は聴いているときの楽しみが半減してしまう。その点、シュタルケルはチェコ出身ではないが、隣国のハンガリー人であることも手伝ってか、土臭い音がしていて悪くない。だが、この曲のもう一つの要として、第1楽章のアグレッシブな第1主題と、それとは全く対照的に牧歌的でのどかな第2主題の描き分けがあるが、特に後者について、シュタルケルの歌は平凡である。第2主題に酔えない。これではカザルスやデュ・プレに大きく水をあけられてしまう。(というかそもそもカザルスやデュ・プレは第1主題の歌い方からしてシュタルケルに勝るが。)

ベートーヴェンのチェロソナタは1978年の録音で、解説によればシュタルケル3回目の録音であるとか。共演者のブーフビンダーは以前私がドイツに入ったときにライン川の畔で元指揮者だったとかいうドイツ人と話していたときに「素晴らしいピアニストだ」と勧められたことがあって、しかし今に至るまで聴いていなかった。先の2枚までとは打って変わって、シュタルケルの演奏はずっと自然である。ブラームスとドヴォルザークを聴いてがっかりし、もうベートーヴェンを聴くのを諦めようかと思っていた矢先だったから正直驚いた。多くを聴き比べたわけではないからはっきり言えないが、「老成した」という形容詞が合いそうな演奏になっている。ブーフビンダーのピアノは強弱のレンジは狭いが音の粒は繊細かつ綺麗で、解説にも書いてあるように「派手な技巧派ではな」く、例えばモーツァルトの音楽等に適性を示しそうである。ブーフビンダーも解釈が自然で、このベートーヴェンなら安心して聴いていられる。不満があるとすれば、(特にピアニストが)おとなしすぎるところか。ロストロポーヴィチ(共演者リヒテル)やフルニエ(共演者ケンプ)の録音のほうが世評が高くなってしまうのもやむを得ないだろう。しかし、次点ぐらいの評価は充分にできる。

そんなことで古典派からロマン派の3枚を聴いてみて思うのだが、コダーイを聴いていないから、また、3枚しか聴いていないから、明言こそできないものの、シュタルケルで聴きたい曲があるとすれば、コダーイのような技巧的難曲になるのだろうか。ベートーヴェンは悪くなかったとはいえ、他にもっと優れたものがあるからなぁ。コダーイを録音してからしばらくしてバッハの無伴奏も録音しているようだが、期待はできないんじゃないか。いずれ、もう少し多くを聴いてみて改めて評価してみたい。

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2007年06月22日 00:09に投稿されたエントリーのページです。

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