« そしてターンテーブル導入へ | メイン | 赤松林太郎氏のNewAlbumを聴く »

ジャック・ティボーを聴く

ティボーのフランク ヴァイオリンソナタ東芝EMIのヒストリカルレコーディングの復刻CDはひどい。ティボーとかコルトーとかフルトヴェングラーとか、復刻のひどさのために絶対に真価が伝わってこない。50年も80年も前の録音だから仕方ないのか・・・と私もちょっと前までは諦めていたがそれは誤解だった。状態のよいレコードを聴くとなんのことはない、すごく鮮やかな音が何十年の時を超えて鳴り響く。(左は復刻のひどさを如実に示す1枚。もっとも、amazonでは高い評価を受けているが……。)

417V3K5ER8L._AA240_.jpg 先に挙げた3人の巨匠の中でも最も不幸な扱いを受け、忘却されているのはおそらくジャック・ティボーであろう。フルトヴェングラーはDGからも大量の録音が出されているし、また人気の高さもあってレコードから様々な復刻が発売されてEMIの音の悪さを補う。コルトーは幸いにも旧復刻のボックス・セット"Frédéric Chopin: Piano Works "(写真左)が未だ入手できる状態にあり、マシな録音で聴ける。しかし、ティボーは……どうだろう。私自身、LPでティボーを聴くまでそれほど評価してこなかった。OPUS蔵の復刻(試聴可)は悪くないが、それでも改めて聴いてみて思うに、音が硬質すぎると思う。繊細で優雅な音色が特長のヴァイオリニストである。OPUS蔵の復刻は成功しているといいがたい。

ジャック・ティボー ティボーについて知らない人もいるだろうということで、略歴を少し記す。ティボーは、1880年フランスのボルドーに生まれ、1953年に飛行機事故にて没したヴァイオリニスト。フランスものに定評があるほか、1920年代にカザルス、コルトーと組んでトリオを結成し(所謂カザルス・トリオ)、数々の録音を残したことでも有名である。日本には、1928年と36年に来日している。ロン=ティボー・コンクールは彼が後述するマルグリット・ロンと共同で創設したものである。

さて、LPを購入しての所感であるが、正直、これほどに衝撃を受けると思わなかった。今までにLPで入手したのはフランクとフォーレのヴァイオリンソナタ、フォーレのピアノ四重奏曲第2番、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番、フォーレの子守歌、ベートーヴェンのピアノトリオ「大公」、メンデルスゾーンのピアノトリオ第1番、等。このうち、最初に購入したのはベートーヴェンのピアノトリオ「大公」だったかと思うが、共演者のカザルスのチェロ、コルトーのピアノの素晴らしさもさることながら、このときもっとも再評価の対象となったのがティボーであった。CDで聴いていたときは太い音で堂々としたカザルスのチェロに対して、ティボーのヴァイオリンは線が細くてなよなよとした感じでちょっと力不足か(←ごめんねティボー!)という印象を持っていたが、それは誤解であった。LPで聴いてもカザルスの音に比べればティボーが線が細く感じるのは事実であろうが、しかしそれでもカザルスのチェロ、それからコルトーのピアノに合わせて、ティボーも優雅に歌っていることが聴き取れるのである。

モーツァルトの協奏曲第5番はミュンシュと入れた録音であるが超個性的な演奏で好き嫌いは分かれるだろう。19世紀的なロマンティシズムが濃厚すぎて21世紀を生きる私たちの耳には最初違和感をもって響くかもしれないが、私は嫌いではない。今までよくグリュミオーのCDで好んでこの曲を聴いていた。爽やかに疾駆する演奏が若き日のモーツァルトの音楽にはふさわしくも思っていたのだが、ティボーを聴いて以降は、グリュミオーがいかにも没個性的に聞こえてしまう。もっとも、ティボーのこの録音が名演かといえば、ルバートを多用するティボーに指揮者ミュンシュがあっさりと合わせすぎてちぐはぐな印象を与える箇所も多々あるから、手放しで賞賛されるものではない。

フランクのソナタは、CDでも同じ録音を持っていたが、それに比較すれば、LPではピアノ(コルトー)とヴァイオリンともに鮮明に捉えられていて、80年近く前の演奏ながら鑑賞には全く問題ない。20世紀前半を代表するフランスのヴァイオリニストとピアニストが呼吸ぴったりに共演していて、第一楽章冒頭からただただ惚れ惚れする。同曲にはチェロとピアノで録音されたものも多く市販されており、フルニエやデュ・プレの演奏もなかなか素晴らしいが、ピアノもヴァイオリンも絶品のこの録音には適うまい。

フォーレのソナタはフランクに比べ録音がやや劣る上に、演奏自体の出来もさほどではないと思う。同じフォーレでも同じくコルトーと入れた子守歌や、マルグリット・ロンとフルニエとモーリス・ビューと入れた四重奏曲第2番のほうがやり尽くした感があってよい。子守歌は小品ながら気の利いた節回しがたまらない魅力を放つ。四重奏曲はロンの冴え渡るピアノもまた聴き所である。

<今回使用したレコード>

レコード 収録曲 録音年 評価
共演者

GR-2010(Angel Records)

ベートーヴェン ピアノトリオ 大公  1928
5 コルトー,カザルス
GR-25(Angel Records)
フランク ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 1929 5 コルトー
  フォーレ ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 1927
4 コルトー
GR-81(Angel Records) フォーレ ピアノ四重奏曲 第2番 1940
5 マルグリット・ロン,フルニエ,モーリス・ビュー
GR-133(Angel Records)
フォーレ 子守歌
1931 5 コルトー 
GR-2159(Angel Records)
モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番
1940 3.5
ミュンシュ,オケ不明

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://senrenja.s266.xrea.com/mt/mt-tb.cgi/4

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2007年04月28日 11:48に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「そしてターンテーブル導入へ」です。

次の投稿は「赤松林太郎氏のNewAlbumを聴く」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

Powered by
Movable Type 3.34